研究と職業

最近、旧来の知人友人の近況を見聞きして、それがなにか特別な物事でないにしても心が温まったので、自分も最近の状況や思うことを便りとしてまとめてみることにしました。 特にメッセージ性はないです。

今は東京の Preferred Networks という300人程の会社で、人工知能 (AI) などと称されるモノの研究開発をしています。 例えば、ミカンの写真から等級を予測したり大量の報告メールから要点をまとめたりする仕事、などなどを機械が自動的にできるようにプログラミングしたりする仕事です(架空の例です)。 現代ではまだまだ出来っこないことやコスパ的にビジネスとしては難しい問題などもあるので、夢と現実に頭を捻らせて頑張っています。

2016年に新卒で入ってからそのまま5年働いていることになりますが、途中で在職しながら東北大の大学院にも入り、今年2021年の9月には博士号(情報科学)の学位を取りました。 11月からは兼業で少しだけ東北大にも研究員の籍を置いています。 会社にせよなんにせよひとまず「研究」というものでご飯を食べて生きています。 かつ、そこそこ楽しいので趣味的にもやったりやらなかったりしています。 振り返ると、長野の小さな村で育ちつつもこんな職で働いており、思えば遠く来たもんだというやつです。 しばらくはこの調子でコンピュータサイエンスにまつわる研究を生業にしてやっていきそうですが、どうしたものかと思う節もあり、それについて少し書こうと思います。

研究というのは、世の中のある物事や現象を取り上げて、それを詳しくまとめたりどういう問題があるのかを論じたりします。 そして、特に工学的な研究では、そういう問題に対する「新しく良い解決方法」を説明する(そして本当に「新しく」「良い」のかを証明する)というのが、研究の典型的なゴールになります。 例えば、最近足が冷えてつらいという困りごとに対して、体温ではどれほど冷たいのか、そもそも全身が寒いのではないか、部屋の温度はいくつか、などを調査したり、こたつやストーブやエアコンよりも幸せのコスパの良い自宅用足湯装置を編みだす、というのが研究の流れになります。 大抵は論文としてまとめて発表します。 ちなみに自分が今まで書いた論文も読めるので興味があれば見てみてください。 論文以外で見栄えのわかりやすいものとして、口頭で命令すると言われた物を運んでくれるアーム移動ロボットの中身のシステムとかも会社で作ったりしていました。 なお、足の冷えについては、膝でも足でも手でも温めやすい電気ひざ掛けがおすすめです。パナソニックのくるけっとをこの間買いました。

研究の良いところは、「世の役に立つ」「ご飯が食べれる」「色んな人と楽しく話せる」「労働時間の自由度が高い」「学べることが多い」「自分の着眼と自分の発想を自分の言葉で表現できる」とか様々です。 個人的には最後の一つが特に良いところで、研究は自己表現や美学の追求を行う芸術に近い印象があります。 夏目漱石も「科学者と芸術家とは、その職業と嗜好を完全に一致させうるという点において共通なものである」と、言ったとか言っていないとか。 実際に職業と嗜好を一致させられるのはごく一部とはいえ、それでも研究者とは便利な職業です。

職業としての研究者を考えたときに、典型的にキャリアとして好ましいとされる戦略の一つは研究テーマの絞り込みです。 例えば「物理法則を制約に取り入れた機械学習」や「画像群からの三次元復元」のように、ちょうどよく抽象化されつつ絞り込まれた分野で穴を深く掘っていくという形になります。 しかし、自分はこの絞り込みをこれまであまりしてきておらず、特段強い愛着のある分野もないのでなかなかえいやとは舵を切れません。 企業研究者である以上そもそも舵に制限があるという側面もありますが、なんとなくそれ以前に自分の嗜好の絞り込み自体にまだまだ課題がありそうです。 博士課程では幾分かはこれをして博士論文を仕立てる必要があったので、最終的には「ニューラルネットワークのサブネットワーク」に関連した研究を幾つか行いました。 ユニークで面白いネタ(査読者の評価はいまいちで苦労しました)に取り組めたと思いますが、今後もこれで押していくかというとそんな気はしません。 これまで、幸いにも色んな人と共著で色んなテーマの研究をしたり色んなプロジェクトに関わることもでき、おかげで「深層学習のなんでも屋さん」としては我ながら結構良い線をいく人間になれている気がします。 こんな調子で今まで通り気ままに働いていければいいのですが、どうしたものかとやんわり考えています。 なお、研究自体にも飽き(たり過酷さゆえにやめ)る可能性もありますが、今の所まだまだやっていきそうです。 ビジネス側に寄った取り組みも楽しいには楽しいですが、「どんなスポーツも大抵楽しい」くらいの意味で楽しいだけな気もしており、まだ優先するほどの気持ちはなかなか湧きません。 とはいえ、世の役に立つものや感動するものを真に送り出せたら、それは多分格別に嬉しいことだと思うので、製品やビジネスに寄ったテーマでも「職業と嗜好を完全に一致させ」られるように、今後も期待してやっていこうと思います。

こういったジェネラリストとスペシャリストの間の押し引きみたいな話は、本件に限らず色んなところで起きる陳腐な話題だと思いますが、ひとまずこんな感じにあーだこーだ考えて元気に暮らしています。 本旨の通り、ここで尻切れあっさりに終わりです。 来年はまた色んな人とわいわい話したり遊んだりしていけたらいいですね。 それでは、やっていきましょう。