読んだ本の感想

最近読んだ本の話をちょっと書く。 そんなに大層な量の本を読んでいるわけではないので分母はたかが知れているものの、悪くなかったよ、という本を幾つか書いておく。

(一本目の投稿は年末の挨拶や久々の便りという文脈のあるテキストで幅広い関係性の誰かに語りかけている度合いが強く敬語丁寧語がふさわしかろうと思って書いていた。のだけど、適当なテキストを書くにあたってはいかんせん畏まりが過剰に感じる。よって普段はそれを省いて書こうと思う。)

『クララとお日さま』 カズオ・イシグロさんの小説。近未来SF。人間とのコミュニケーションして共存できるようなロボットのおはなし。ぼちぼちよかった。感動を演出するにしては淡々としているので、どちらかというとひっそりとした悲劇的な側面が心に残った。ひとまずロボット側の気持ちが上がり、人間側の気持ちが下がった。

人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』 ハヤカワSFコンテスト優秀賞だったらしい小説。タイトルから敬遠する人は多そうだし、自分もそうだったのだけど、読んで見ればしっかり面白かった。おそらくは機械学習系に携わっているであろう筆致で、機械学習人工知能系の内輪単語やネタ(NeurIPSとか)をぽんぽん使っていて要所要所でオタク的なニッコリができる。伊坂幸太郎のようなテンポの良いエンタメで読みやすい。キャラもほどよく立っている(なんとなくとある人物二名に化物語の忍野や貝木を重ね合わせて読んだ)。界隈の人が気晴らしに読むと楽しいと思う。機械学習ジョークとか内輪ネタ感がすごい気もするので、界隈じゃない人が読んで面白いのかはわからないけど、amazonでの評価はひとまず高いので良いんだと思う。エンタメ的にご都合主義とか技術をピーキーにすることはあっても、てんでデタラメみたいなのはなくて安心して読めるくらいだった。おすすめ。映画化したら映えそう。

『ロボットと人間』 石黒浩さんの本。クララとお日さまにせよ、完全犯罪マニュアルにせよ、どちらもロボットと人間、AIと人間の関わり合いとかそういうものに対する問いや話題がやはりある。それに加えて本書もやはりそういう話題盛りだくさん。意図せずしてそれらに最近浸かったのでちょっとだけポエミーなことを書く。 今も人間に近づいていく知性・生命体の発展が盛んなわけだけど、今のような技術の過渡期にしか接することのできないアイデンティティはありそうで、それと接した際の感情のわびさびも意識的に楽しんでいくのも大事かもしれないな、と思った。将来的には現代のヴィンテージな生命体(今現在から見たたまごっちとか?)もいろいろ復刻されたりするのかもしれないけれども、どうしても経験や社会文脈上のフィーリングは変わってしまうと思うので刹那的に感じる。とあるロボットが殺人めいたことを起こしたあとには、人々のロボットへの意識は大幅に更新されてしまうと思うし、様々なロボットの悪いところは一つの「ロボット」なる種どころか擬似的な人格へと集約されてしまうかもしれない。今のような時代にだけ接せられるそのロボットやAIは一種の絶滅危惧種なのかもしれない、という感じ(こういうこと、誰かが言っている分にはほーんなるほどなーくらいに思えるけど自分で言うとなると気恥ずかしくてかなわない。こういう妄想的言説を文字として発せられるのは一種の才能なのだと思わされる)。なお、これは自分の妄言であって本書に強くこれをサポートする話があったわけではない(はず)。

『アカデミアを離れてみたら』 色んな「アカデミアを離れてみた」ひとたちのお話。ウェブでの連載時にも読んでいた気がしたけど見逃した気もしたので読んだ。研究と職業などという投稿をしたくらいなので、こういうキャリアプラン的な話や若干の研究のメタな話は興味があってのぞいてしまう。即効性の情熱効果はまだないものの、各エピソードやモチベーションのサンプルはなるほどねと胸にしまった。

『海外で研究者になる』 海外でアカデミアの職を得るためにしたことあれこれの話。色んな人の事情が書いてあって学びがある。実際のところ自分がそれを直接活用する機会はなかなかないと思うのだけど、素朴にとあるコミュニティのカルチャーを知るのはそれはそれとして楽しめる。

『世界を変える寄り道』 Nianticの副社長の川島優志さんのポケモンGO成功あたりまでの道筋。面白かった。 あと、関連として野村達雄さんの『ど田舎いまれ、ポケモンGOをつくる』も読んだ。幼少期の長野の話が出てきて良かった。こういうザ・コンピュータ好きのような人の話を聞くと、そういう「コンピュータ(にまつわる技術)」への熱量というか熱狂を強く持っているだけで一定の尊敬をしてしまう。自分にも多少はあれど、主観的にはそこまでのものではない。世のSWEみながそこまでコンピュータに情熱的ではないのは分かっているものの、それでも自分事としては、自分が今後(特に研究寄りではない)SWEになる可能性を考えたときにその情熱不足は結構強い暗黙的なブレーキになっている気がする。それはさておき、GoogleにしてもNianticにしても、色んな(すごい)人と有機的に協力しながら成し遂げていくのはやはり仕事の形としてとてもいいなと改めて思った。

ヘテロゲニアリンギスティコ』 漫画。久々に新刊が出ていた。言語学者が魔界(といっても比較的ファンタジーすぎない、ちょっと山を2つくらい超えたらもしかしたら...くらいの世界観)に行って、人語を解さないワーウルフなどの種族と「コミュニケーション」を取りながら、社会、感覚、認知、文化、言語などなどを手探りで学んでいく(そして読者もその経過と方法論について学べる)。未知の文明の未知の存在とコミュニケーションを取るにあたっての壁と苦悩がしっとりと面白い。言語のみに着目した本というわけではなく、言語が言語のみでは言語たりえないのと同様に「社会、感覚、認知、文化」などなどてんこもりなので、いずれに興味がある場合でもおすすめ。 漫画はその他も色々読むものの、ある程度のマイナーさや含蓄があるような場合以外はどうにも取り上げづらいのでほぼ省略。『紛争でしたら八田まで』は学びある系としては好きだしおすすめ。『正直不動産』も面白くてもりもり読めてしまうものの、しばしば客などの登場人物が邪悪なのが少し大変である。

『最強の商品開発』『デジタル時代の基礎知識「商品企画」 「インサイト」で多様化するニーズに届ける新しいルール』(後者は社内の富永さんの書いた本である。) ちょっとビジネスのほうを考える機会が多かったときに読んだ。若干期待と違って商品や製品自体よりもそれの売り方のお話が多かった(というか、その出口の演出を考えずに商品や製品自体を考えちゃいけないよね、とかの話)。「それができたら苦労はしねえ」となりやすい話も多い気はするけど、銀の弾丸的な方法論にはならないにしても、読んでおけば「悩むにふさわしい点で悩める」ようになるだけでもいいのかもしれない。いい本だと思うけど、意外にも自分が案外知っていることも多かった。というのも、おそらくは似たような内容をこれまでの社内でのコミュニケーションややりとりの中でじわじわと見様見真似で教わってきた気がする。そういう意味でこれまでの取り組みでの隠れた手応えをちょっぴり感じられたのはよかった。こういう本、中学生とか高校生のときに読んだほうが逆にもっと楽しめた気がしてちょっぴり惜しい。

『世界の名前』 まだ途中で数ページごとの「名前」にまつわるエッセイが色々入っている本。未知語カタカナが大量に出現するので真面目に学ぼうとして読むとかなり大変だけどもふわっと目を走らせる分には楽しいおはなしもある。こういうほとんど役に立たないけど、でもその知識が日常を少しだけ味付けしてくれるようなおはなしはなんとなく摂取しておこう、という気持ちになる。例の「あっこれはよもぎだな ああ......草がわかるのってすごく自分がうれしいな」に似た感覚。

以上。放っておくと論文ばかり読んでしまうので、意識してもう少し別の本を楽しんでいきたい。